第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
『omake〜家康様side』
エレベーターに乗り込んで、
押した屋上行きのボタン。
扉が開けば夜風が吹き込んだ。
ぶるっと一瞬震えた華奢な背中。すぐに真っ直ぐに伸びて……
「うわぁ……」
歓喜の声を漏らして、
フェンスに向かって小走りしていく。
カシャン。
その背中をゆっくりと追い、身を乗り出すひまり。俺が、小さい子供に注意をする保護者みたいに……
「……こら。危ない」
軽く頭を小突くと小突かれてるのにも気づかないのか、顔だけこっちに向けて、笑い声と希望に溢れたようなキラキラした言葉が返ってくる。
俺はそれに短い返事だけして、少しでも体温が分けれるように……
小さな体を両腕の中に閉じ込めた。
「編集長に聞いたら、割と綺麗だって聞いたから。………喜ぶかと思って」
理由は三つ。
来週の記念日に時間が作れそうにないのと、ただこのまま帰したくなかったのと……
「今夜は三日月だね」
(月を無性に近くで見たくなった)
三階建てビルの屋上では大したことないけど、地上から見るよりは近い。
あと、数日で新月を迎えようとする月の満ち欠け。
その月を見上げるひまりは、時折吐き出す吐息も聞こえるぐらい間近にいるのにも関わらず……
まだ足りない。
もっと近くに。
寒さを理由にして俺は隙間を作らないぐらい、自分の方に引き寄せる。
(……ほんと小さい)
頬を擦り付けながら暖をとるひまりが無邪気で可愛くて、力を入れ過ぎないように気をつけているつもりでも……無意識に俺は強く抱き竦め、自分と同じ香りがする髪に顔を寄せた。