第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
珍しい色味の深紫の髪、後ろで一つに結ばれ、同世代の男の子にしては少し小さめの身長。家康より10センチくらい低い感じ。
俯いてて顔がよく見えない。
(メンズモデルさん?……あれ?でもこの声、誰かに似て……つきや?ツキヤ?月夜?……ん?どこかで……)
「ひまり、行くよ」
う、うん。男の子とすれ違った瞬間。
「……ひまり……?」
聞き取れないぐらいの小さな声だったと思う。後もう少しで何かが頭の中で繋がりそうになった時。
家康に腕を引かれて、
エレベーターの中に。
カタン……
左右から均等に閉まり出した扉。
男の子の頭がゆっくり上がりこっちに向きかけたけど、その前に扉が完全に閉まってしまった。
「珍し。ひまりが難しい顔してんの」
「ちょっと気になって。…さっきの……え??何で上に?」
「……内緒」
一階に下がるのではなく、屋上へと上がっていくエレベーター。
外気を浴びた身体は想像してたより寒むくて、正面から受ける冷たい空気が身に沁みる。でも体温よりも私の意識はそこから見えた頭上に広がる星空と眼下の夜景に持っていかれて、手すりから身を乗り出すよう眺めた。
カシャン。
「……こら。危ない」
「ふふっ。つい!浮かんでるみたいで見やすいかな?って……綺麗だねっ!」
まぁね。顔だけ後ろに向けると、そこには目元に微笑を浮かべ少し大人びた家康がいて……
はしゃいでしまった自分が少し恥ずかしくなって前を向いて口を閉ざすと、一番肌寒かった背中にぬくもりが広がる。
フェンスを掴んでいた私の手の上に重ねられた手。冷たかった指先にじんわりと家康の温かさが伝わって、気がついたら寒さは何処からも消えていた。
「編集長に聞いたら、割と綺麗だって聞いたから。………喜ぶかと思って」
最後の部分だけはボソッと呟く家康。
「ありがとう。すっごく嬉しい……」
「風邪引かす訳にはいかないから。あんまり、長居は出来ないけど」
意地悪な時も多いけど……
私のことを考えてくれて、
優先してくれるのはいつも変わらない。