第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
『ベビーピンク』『中紅花』
スタジオ内の数々の機材が運ばれていく様子を視界の端に入れながら、記念撮影に使われたケーキと編集長が夕飯がわりに用意してくれた軽食を堪能した後、私達はスタッフさん一人一人に挨拶。
「専属モデルの件。また、考えておいてくれ」
「ひまりの代わりに、俺が丁重にお断りします」
私が何か言う前に間髪入れずにそう告げた家康。編集長さんは一瞬だけ驚いた顔をして次には「ははっ」と、高らかに響かせた笑い声。
「それは残念だよ。ティーン向けコスメ。需要があるからこれから売り出していく予定だったんだが」
「私はひまりちゃんと連絡先交換できたから満足っ!」
「また、メイクのコツとか教えて下さいねっ」
スタイリストさんと笑い合っていると、近くにいたカメラマンさんがパシャリと一枚撮ってくれる。
「君達、また個人的でも良いから撮らせてくれ。……二人揃うと本当にいい表情が出る」
好きが詰まった表情がね。と、言われて私は返事をしながら両頬を手で押さえれば、隣に立つ家康はそっぽを向いて口元を押さえた。
広告看板は来週の私達が付き合って二ヶ月の日に合わせて上げてくれるみたい。記念撮影した写真はまた出来上がり次第、連絡を貰うことに。
「「ありがとうございました」」
扉前で揃えた声。
新品のベビーピンク、限定の中紅花のルージュとくまの縫いぐるみを私は貰って、ご機嫌で一礼して家康と一緒にスタジオを後にした。
「信康くん知らない間に帰っちゃったね。モデル料、預かったのは良いけど……学校で渡して……あ!」
「俺が預かって、渡しとく。……神木に用事あるから」
ヒョイと奪われた茶封筒。
(用事?家康が信康くんに?)
どんな用事だろう?
と、頭に浮かんだハテナ。
一階に降りるエレベーターが開く。
「月夜(つきや)今日は、シルバーアクセの撮影だからしっかり頼むわよ」
「りょーかい」
中には、いかにもマネージャーさんって雰囲気のビシッとスーツを着た女性と、その隣には携帯を触っていた男の子。下を向いたまま返事をして、エレベーターから降りてくる。