第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
『コーラルピンク』
スタジオを後にして、
駅の方角に進みだした足。
腕時計をチラチラ気にしている私に、隣を歩く三成くんが「急ぎますか?」って、声をかけてくれるけど……
(その逆。なんだけどね……)
時間も時間。家が遠い私はケーキをお土産に貰って一足先に帰ることに。三成くんはウンもスンもなく送ると言ってくれたのは有り難いけど、余計に帰るのが残念になったのが本音。
無意識ってある意味、怖いわね。
そのままの心を表したように、駅が近づくにつれて散歩でもするようなのんびりした足取りに変わる。
(好きな人といる時間て……何でこんなに短いんだろう)
ふとそんな事を、受験生真っ只中で追い討ちをかけないといけない時期なのも忘れて思ってしまう。
「夜は冷えますね。寒くはありませんか?」
気遣ってくれる優しい声に、私は声ではなく顔を上げて首で答えた。薄手のコートを羽織っている私なんかより、カーディガンしか羽織ってない三成くんのが寒い筈。
「三成くんこそ、寒くない?まさか、体感温度まで無頓着じゃないわよね?」
実はさっきから二人っきりの時間に少し緊張していた私。普段通りの雰囲気に戻そうと、あえて揶揄う素ぶりを見せて尋ねると……
「………もし、寒いと答えたら」
隣から音が消え、
止まった足。
不思議に思って私も立ち止まると、ゆっくりと真剣みを帯びた瞳と結び合ったように目が合う。
「貴方を包み込んでも……許して頂けますか?」
いいも悪いも、返事もまだの内に……
まるで暖かい枠のなかにピッタリ収まった、身体。
ここが私の居場所だと……
そう、教えてくれているような三成くんの抱き締め方は……
柔らかくて温かい。
(違うわね。……きっと、返事は不必要だったのかも)
センター試験が終わるまで、
返事は待つと言ってくれた。
その間に想いを育むからと。
「この色味……しとやかで上品な貴方には、良くお似合いです」
私の好きな人は、
時間をかけて大事にしてくれるみたい。
それが、三成くんの愛情なのかもね。