第248章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(35)時を繫ぐルージュ編
「えっとね。教室前でどうしようか悩んでた時に視線を感じて。……眼鏡くん前にね?保健室で甘いもの好きって言ってたから」
「そう言えば……眼鏡も保健員だっけ?」
「うん。いつもお世話になってるし、もし良かったら?って、一度は渡して受け取って貰ったんだけど……でも、眼鏡くん。ちゃんと思いを込めた人に渡した方が良いって言ってくれて」
返してくれたの。
「そ、そしたらね!その〜……その受け取る時に通りがかった人とぶつかっちゃって……」
ドンッ!
ーーわぁっ!
「落としちゃった」
気まずそうに笑うひまり。
それを聞いて、一気に落胆する家康。
「はぁー……あのね。落ちてもひまりが作ったヤツなら食べたし」
「だ、だって!他の子は上手に作った物なのに、落ちたやつなんて……」
しかし家康なら多分そう言うだろうと。だからこそ、あえてその話はしなかったのだ。
「だから。俺はひまり以外のは要らない」
「もしかして、貰ったケーキ一個も食べてないの?」
「……食べてない。けど、誰が置いていったかわからないから突き返せないし。忘れ物のとこに入れてきた」
「え!?忘れ物入れに?」
「名前もなしに、勝手に置いてく方が失礼だと思うけど?」
それを聞いてひまりは申し訳ない気持ちで一杯になり、やるせないような表情を見せ謝ろうとした時。
柔らかい頬がふにっー、横に伸びる。
「ひやぁ〜い!」
「……っとに」
(クッ。いかにも、幼馴染らしいやり取りだね)
ここぞとばかりにシャッターを切る、カメラマン。
「……ほんと。俺の彼女なの良い加減、自覚して。眼鏡が変に期待したらどうすんの?」
「……期待??……何の?」
頬を引っ張るのをやめた家康の手に、ひまりは自分の手を添えて聞き返す。
「……ドシな上に鈍感」
「うっ…そうやってすぐっ。ドジなのは分かってるもん!」
「なら、鈍感は?」
もうすっかり、撮影ではなく普段通りの部屋デート。いつもはこの後、あの手この手でひまりに甘いお仕置きをするのだが……
二人の前に、
代わりに届いた甘いケーキ。