第248章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(35)時を繫ぐルージュ編
スタッフはくまの縫いぐるみを信康の右脇に抱かせ、ルージュを前に回した家康の左手に持たせた。
「撮影した写真が三枚横並びになったら、まるで合わせ鏡のようになりそうね!」
「そうですね。この撮影はまるで時の時の狭間……時の違う二人の女性が一人の姫になり、それでも時が違う同じ男性に愛される……そんな印象を受けます」
編集長の言っていた「時が繋がる」コンセプトに、ぴったりと当てはまったような……
三成はセットの中にいる三人に視線を向け、降り注ぐシャッターの光と音を視覚と聴覚で追う。隣で瞬き一つせず見入る副部長とは違い、貼り付けたように信康を凝視。
パシャパシャパシャパシャ……
連写でシャッターを切る音。
夢中でレンズ越しで、カメラマンはその瞬間、瞬間を捉える。
近づいたり、後方に移動したり……
「ひまりちゃんも目線!今度はこっちにくれないかっ」
時間をかけ、
ゆっくり動いた左右の色が違う瞳。
「ところで時先輩?その人形……」
「ん?これ?」
首をあっちこっちに動かす三成の意図が読めた副部長は、抱いていたくまの縫いぐるみを顔の前まで持ち上げると、編集長から貰ったことを話す。
「クリスマス限定色を購入すると、抽選で当たる景品みたいよ?クリスマスプレゼントとして」
「成る程、ですから撮影にも関係していたのですね。納得です」
「後、これも貰ったの。コーラルピンクのルージュ。……三成くんが撮影したのがこの色だったからって///」
後で塗ろうかなと、思って……
声をだんだん小さくさせ、下向けば音もなく伸びてきた指先。副部長はその繊細な指を見れば誰のものかすぐにわかり……
「もし宜しければ、私に……させて下さい」
顔は上げずに、
人形のようにコクリと頷いた。
その同時刻___
政宗の部屋で、カバンの中から折りたたみの携帯用鏡を取り出してそわそわ落ち着かない様子を見せていた……
(や、やばいっ……部屋に来てしまった///)
弓乃は表情を青ざめたり、
赤くしたりを繰り返す。
ひまりから貰った、
ローズピンクのルージュ。
それを握り締め、何度も塗り直して飲み物を取りに行った政宗を待っていた。