第248章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(35)時を繫ぐルージュ編
最後の撮影___
広告看板、三枚横並びパネルを飾る真ん中……メイン撮影。
それが始まる前、スタジオが一際賑わう。モデル三人がセットの中に入れば、その場に居た全員が声を失い、時の歯車が狂い出したかのように、それぞれ感じた時間が違った。
一瞬のように感じた者。
フィルムを逆送りするように感じた者。
季節の移り変わりのように長く感じた者。
三人が無意識に取り囲んだ……
創り出した時空の空間。
(想像以上だ……)
暫く開いた口が塞がらなかった編集長は、グッと拳を握り潰し自分自身を奮い立たせるとセットの前に移動。
セットのスクリーン背景。満月が浮かんだ薄墨に、ぼんやり無数の赤い提灯。混じる雨か雪か見分けが付かないグラフィック。
「家康のコンタクトが片方しかなくて、私まで片方になっちゃったね」
「結構、予備あったみたいだけどね」
「俺が悪いみたいな言い方しないでくれる」
異物が苦手な家康。
予備のコンタクトを全て使い切ってしまい、結局付けれたのは左目だけ。ひまりも同じように左目だけに琥珀色のコンタクトだけを付け、信康も左目のコンタクトを外した。
左右対称になるような目色に、
家康と信康はなった。
「家康くんは、ひまりちゃんの左後ろで、信康くんは右前に立ってくれ!」
黒髪のお姫様カットのカツラを被り、ベアトップの和風ドレスを着たひまり。脚を少し動かせば薄墨色の透け感あるストッキングが裾の切り込み部分から覗き、編み上げショートブーツが見える。
肩から腕半分に白い肌を露出して、
着物の袖部分だけ切り離した生地をまるでアクセリーのようにして残りの腕を隠したファッション。
「ひまりちゃん!右手を伸ばして、左手で家康くんの顎に触れて少し横向き加減で目線はカメラに!」
「そう流し目の感じが妖艶で良いね〜!」
意気込みの入った編集長とカメラマンの声を遮断しないよう、口を固く閉ざし、スタッフ達は静かに撮影風景を見守る。
「はい!……こんな感じかな?」
「俺はこの右手を取れば良いんだね」
信康は片膝をつきひまりの右手を、そっと手に取る。そして、家康は指示通り後ろから抱くように腰元に両手を回す。ひまりは左手を上げスッとした線の顎を誘惑するような指扱いで触れた。