第247章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(34)時が繫がるルージュ編
通路___
防滑加工がされたビニル製のシートの床。その上を、前方からガヤガヤと話し声と共に響いた数人の足音。それは、外から買い出しを終えた編集長や副部長、三成、スタッフ達のものだった。
一本道通路。
その姿を捉えた頃には立膝をついていた足を動かして、スクッと立ち上がり顔を上げた信康。
ゆっくり右目を押さえていた手を下ろし……
(……観覧車…ね……)
遠くを見るように目を細め、
忘れないように心の中でそう呟き刻み、胸に仕舞うと何事もなかったかのように、前から歩いてくる数人と対面する。
「あら?神木くん…だよね??」
「……何方に行かれるのですか?」
「時間も結構経ったから、もう一度ひまりに声を掛けてこようと思ってね」
ビニール袋、ケーキ箱、キラキラしたパステルカラーのバルーン。そんな数々の荷物を抱えた副部長と三成。その荷物を見て、信康はパーティでもするのかと尋ねれば副部長は少し早いけどね、と涼しい雰囲気の笑顔で答えた。
「しかし、家康先輩がご一緒ならお声を掛けなくても良いのでは?」
「控え室に携帯を置きっ放しなんだ。何か連絡来てないか気になるしね。声かけても応答なかったら、またスタジオに行くよ」
爽やかな笑顔を見せて、そのまま二人の横を通り過ぎ編集長にも同じことを告げ信康は控え室の方に足を進める。
「私達も荷物を置いたら、一度、見に行かない?」
「………そうですね」
信長達から信康の話を薄っすら聞いていた三成はにっこりとした微笑みの裏に、警戒心を隠す。
(しかし、他人の空似にしても……あれ程まで似ているものでしょうか?)
両手に抱えた不安定な荷物も忘れ、
言葉が耳に入らないほど考え込んでいた三成。隣で「どうしたの?」「もしかして荷物が重い?」鈴音のような凜とした声。副部長の声にはすぐさま反応して、くるっと首を動かし心からの笑顔で「ご心配なく」と、応えたが……
「おや、……おやっ……!」
「三成くん!ケーキだけはっ!」
グラグラ揺れ出す荷物。
「あわわっ…!」
(ふーっ……何とか間に合ったわ)
咄嗟に箱だけは掴んだ副部長。
白い大きなボックスを抱えた胸を、
ホッと撫で下ろした。