第247章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(34)時が繫がるルージュ編
脱衣場___
や、く、そ、く!だよ!
「……っ!!」
数十秒後……
シャッー……
扉の向こうから注ぐシャワーの音。
その音を聞くともなし聞き、武者震いをするように背筋に襲ったのは、言葉では言い表せない……じわじわと何かに迫られるような掻き立てられる感覚。
(……半端ないし……くっ……)
左目に襲い掛かる強烈な痛み。
膝がガクンと落ちかけ、咄嗟に目の前の扉に家康は右手をつく。
それは、今までのものと比較にならない痛み。目の中を抉られ、目の奥から苦しみが込み上がるような……
家康は流石に耐えきれず、扉から手を離して体を横に向け、洗面台と正面になるような体勢でミラー部分に手を突き体重をかけた。
(そう……言えば…コレ始まったの…確か……神木と校舎の中で会った日…の帰り道……っ……)
ーー石碑の場所、教えて貰える?
思考を巡らせるも、
痛みでまともに頭が働かず……
シャッー……
シャッー……キュッ。
シャワーの音が消え、
次に届いたコックを捻る音。
(ひまりが……出てくる前に……)
押さえていた手をゆっくりと下ろして、瞑っていた左目を少しずつ慎重に開け……
「…っ……」
異常ないか確認した次の瞬間には、驚きで家康は言葉を失った。
鏡に映った自分の顔が、
一気に動揺の色に変わる。
瞳は潤み、赤く染まっていた。そう、充血して周りが赤いのではなく……
(何でっ……)
赤色に変化した瞳。コンタクトを外した記憶は鮮明にある。瞬き一つ落とせず、ただ家康は鏡の中の自分を凝視していた時だ。
背後の扉がススッ……遠慮がちに動く。
隙間から覗いた顔半分。
「家康……あ、の〜……」
バスタオル……取ってほしいな。
消え入りそうな声でそう告げたひまり。さんざん悩んだ末、意を決して行動に移したのだ。ただ、恥ずかしさはマックス。目線は横に逸らし、人差し指だけタオルに向かって真っ直ぐに伸ばすので精一杯。
家康はその姿に口元を綻ばせ、瞬きを一つしてからタオルを手に取った頃には……
痛みも消え、
瞳は翡翠色に戻っていた。