第247章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(34)時が繫がるルージュ編
シャワー室___
簡易的な造りでバスタブはないが、清潔はあり、壁は薄汚れた木造ではなく、タイル張り。
シャワーヘッドを持つ前に、
カツラを濡らさないように高い位置でクリップで纏め、それから手に取って蛇口を捻りひまりは目を瞑った。
熱いシャワーを肩から下に注ぎ、ボディーソープの染み込んだスポンジで全身を擦っていく。
扉の向こうに家康……
その気配を磨りガラスから感じ取りつつなるべく意識しないように……
(は、早くしないとっ///)
は、ひまりには無理だった。
「鏡の世界……」
シャワーのコックを捻り、お湯を止めた。目の前にあるバスルームミラー。
白い靄の曇りを晴らすように、手でキュッキュッと擦り自分の顔を映す。
(怖くないよね?……何で、あの時……)
恐怖、違和感、不安、脅威、圧迫感。
不意に冷たい水を浴びたように、膝がガクガク震えだした鏡の世界のアトラクション。
(結局、……出口に着くまで家康の背中を見てて……)
まるで、
閉じ込められたような……
そんな感覚に陥ったあの時。
(鏡なんて毎日、毎朝見ているのに……怖いと思ったから怖かったのかな?)
でも、何でそんな風に思ったんだろう。
ひまりは眉を一瞬だけ寄せた後、また熱気で曇りはじめた鏡をそのままにして、シャワーを元の場所に戻す。家康と変わろうと出ようした時だ……
あることに気づき……
動きが止まり衝撃を受けたように、固まった。
バスタオルがあるのは、脱衣場。
(このままじゃ出れないーっ///)
心の中で悲鳴を上げた。