第246章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(33)時が繫がるルージュ編
それから、
シャワー室に行こうとした時。
ふと、目に入った物。
「これ……。テスターじゃ……え??」
鏡の前に倒れていたルージュ。
それが私が持ってきた物と違うことに気づいて手に取り……
(副部長が置いてくれたのって、私が持っていたテスターだよね?でも……このルージュって今度販売するルージュ?)
キラキラの宝石箱みたいな、輝きのあるルージュ。喫茶店で編集長さんが見せてくれた物と同じで……私は不思議でたまらなくて「何で?」記憶を辿りながら首を傾げた。
「……これ…何でここに。出した覚えないんだけど」
「え?これ、家康が持ってた物?」
隣で家康も隣で不審そうに眉を潜め、編集長さんから預かった簡単ないきさつと、確か撮影衣装のジャケットにしまった筈だって教えてくれる。
「……スタイリストの人が衣装チェックの時に気づいて出したのかも」
「え?でも、この目でちゃんと見たんだよ?副部長がここに置くの……」
私は私でこれとは違う物がメイクルームの扉下に落ちていたこと……そのことから話して、順に追って話しながら、自分もますます首を傾げて困惑。
「それか、俺が落としたとか?そんな記憶ないけど」
「でも私が塗った物と違うよ?大きさと形はそっくりだけど……これじゃなくて、もっと地味な物だったよ?」
「……朦朧としてたんでしょ?通路で寄りかかるぐらい?」
「うん。でも、それは塗った後からで……」
もしかして、
ルージュを塗ったから??
その可能性も考えて容器をくるくる回したり、成分のラベルを見たり、鼻を近づけくんくん匂いを嗅ぐ。でも、すぐに止めて蓋を閉めた。
塗った物がこれじゃなかったら意味がないよねと、思ったのと……確かに家康の言う通り意識が朦朧としていたから。
「……まずは、移動。後でこれ…塗って貰うつもりだっから。この怪我。……早く治る薬に」
「え?……薬?」
「……そう。……後でたっぷり貰う」
唇にふにふにと柔らかい感触。