第56章 風待ち月(5)
その日の部活中___
「何か、最近元気ないわね?もしかして、また…」
「そんな事ないです……っ!あっ!実は私、今度の大会に向けて、お守り作ってて!」
前に一度、現場を見ていた副部長。私は途中で言葉を遮り明るく振る舞う。
後は、急遽出場が決定した三成君の文のお守りを作るだけ。そしたら、秀吉先輩の神社に皆んなでご祈祷に行きたい。私はその事を話した。
「今日の帰りに、三成君用の生地を買いに行く予定なんです!」
「帰り?徳川君と?」
そう聞かれ、副部長が家康の事を好きなのを知っている私は一瞬躊躇いながらも、政宗も一緒だと伝えた上で返事をする。
「なら、夜遅くても。用心棒が二人いれば安心ね!」
副部長は嫌な顔一つせず、笑ってくれた。家康のこと好きでも、いつも優しくしてくれる副部長。
今もまだ好きかはわからないけど、弓を放つ前の家康の横顔を、真っ直ぐ見つめているのを何度か見た。
(きっとまだ家康のこと)
副部長は見取り稽古を付けてくれながら、野外活動も楽しみだけど来月の合宿も楽しみだと話す。私が肝試しはちょっと……。と苦笑いをすると、副部長は一番の盛り上がりなるから外さないわよ!と、ニヤリと笑うのを見て、私ははにかんだ。
「やけに楽しそうだな?」
「秀吉先輩!」
後ろを振り帰り声を上げる。
「腕、治ったか?」
「はい!家康がよく効く薬をくれて!」
「そうか、良かったな」
秀吉先輩は優しい手つきで、私の頭を軽く撫でてくれる。まさにお兄ちゃんが妹をあやすような感じに、心があったかくなる。
「約束だからな。野外活動後に見取り稽古つけてやるよ」
「本当ですか!?」
「変な見取り稽古を姫につけたら、許さないわよ?」
副部長の言葉に、努力する。と穏やかに笑みを浮かべた秀吉先輩。
変な見取り稽古って何ですか?と、尋ねると秀吉先輩はさぁな。と言って、私の頭に置いたままだった手で、今度はポンと肩を一回だけ叩き、他の部員の所へと去って行った。