第55章 風待ち月(4)
その日の昼休み___
野外活動で一緒の班になった私達四人は、レクレーションの話をしながらお昼ご飯を屋上で食べていた。
「キャンプファイアーと言えばダンス!男女ペアで手と手を取り……私は秀吉先輩と」
「ふふっ。秀吉先輩の競争率は凄そうだけど、頑張れ!ゆっちゃん!」
ゆっちゃんはウィンナーを頬張りながら、まかしといて!と言うように、親指を立てる。私は応援するね!と言いながら、最後に残しておいた玉子焼きを食べようとした時、
「コレ、貰う」
「あ〜〜〜っ!私の大好物!」
家康に横から奪われて、お弁当の中から卵焼きが姿を消す。返してよ!と詰め寄ると、家康はパクッと口に入れて食べ終わると……ご馳走様と手を合わせた。
「俺のやるから、口開けろ」
「いいの?いただきまーす!」
「ちょ!!」
パクッ。
何故か焦る家康を完全無視して、私は箸で差し出された政宗特製玉子焼きを、口の中に入れる。
「うまいか?」
「ん〜〜」
「あらら。徳川、ひまりの大好物取るから。バチが当たったんじゃない?」
「……何で政宗の箸で普通に食べんの。ありえないし……ブツブツ」
ブツブツと何故かいじけている家康を慰める様に、ゆっちゃんは肩を叩いた後、私の方に身体を向き変え、
「そう言えば、近くに蛍が乱舞する幻想的な山道があるらしいよ!」
何でも、今回の野外活動場所の山奥に、一般的なゲンジボタルとは品種が違う珍しい「ヒメボタル」が数多く生息していると、ゆっちゃんが教えてくれた。
でも水生の蛍じゃなくて、陸生の珍しい「ヒメボタル」は光る時間が午後九時から深夜頃になる為、観測は少し難しいみたい。
「きっとイルミネーションみたいに綺麗なんだろうなぁ……。でも、その時間帯は外出禁止時間だから」
無理だよね。と心の底から残念な声を出して肩を落とすと、
「そんなに見たいのか?」
「蛍なら、この辺でも見れるし」
「違う!違う!ほんと、乙女心がわかんない二人ねぇ!ヒメボタルは一般的な蛍より発光が小さいけど……で!……そんでもって……!」
ノリの悪い二人に、生物の教科が大好きなゆっちゃんは若干怒り気味に「ヒメボタル」の素晴らしさを力説し始めた。
蛍……。
ここ数年。まともに見てない気がする。
この辺は生息数が少ないから滅多に見れないし。