第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
スタジオ___
軽くセットされた猫っ毛が揺れ、白いニットの襟をくいっと一度持ち上げた後、スタジオに入っていく。
すると、
扉を入ってきた人物を見るなり……
「信康くん!ひまりちゃん、どうだった?」
打ち合わせをしていた編集長は立ち上がり、真っ先に声を掛けた。デスクの周りには、副部長と三成も座っている。信康は、体調が戻るまで撮影を少しだけ待って欲しいと。良くなれば声を掛けにいくと。さっき扉越しにひまりに頼まれた伝言をそのまま口にする。
「そうか。衣装替えも多かったから……無理させてしまったね。様子を見て、また撮影は後日に回そうかと相談してた所だ」
「暫く休んだら大丈夫だと言ってました。徳川も側にいるようなので……」
「そうか。家康くんが一緒なら安心だ」
「彼の猫っ毛。アイロンでストレートにするの大変だったんですよ。カツラは暑いから嫌だっていうから……ずっとムスッとしてコンタクトなんて、露骨に嫌な顔して」
二人の会話に横から口を挟んだのは、
スタイリスト。
家康のヘアセットに苦戦した後、スタジオに来て準備が整ったことを報告にしに来ていた。
「でも、ひまりちゃんへの愛は確かみたいですね!何か、あんな提案したのが恥ずかしいくらい」
「提案ですか?」「どんな?」三成と副部長がその言葉にハテナマークを浮かべると、編集長はもう一度もその場に座り……
「本来は顔の傷を考慮して家康くんには現代モデルじゃなく、両方の撮影を戦国時代の青年モデルでやって貰うつもりだったんだよ」
「私がそう提案したからね」
スタイリストと目を少し合わせた後、
「顔の傷より、心の傷のが重要。家康くんの名言だよ」
深い何かを語るようにデスクの上に両肘をつけて、手を組み、そこに顎を乗せると話し始めた。