第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
それを見つめながら、
信康は壁に背中をつけると……
「気づかなくて当たり前。ガラス越しで目も合ってないのに。それに………」
拳を固く握り、震わせた。
そして……
「狐につままれるのは…………」
その先の言葉を飲み込み、控え室がある方向へ足を動かした。
メイクルーム___
そこには鏡に映る自分の姿に驚きを隠せないひまりが、呆然と立ち尽くしていた。
「これ……『princess story』の衣装ですよね。……私、じゃないみたい」
長い上まつげと下まつげを何度もくっ付けた後、本当に自分か確かめようと顔やドレスをペタペタ触っていると……
「まさに、現代のお姫様と戦国のお姫様が一つになった感じじゃない?可愛くて綺麗なんて最高よ!」
背後に立ったスタイリストは絶賛。興奮した様子でパチパチと盛大な拍手を送り、家康と信康が見惚れすぎて撮影どころじゃなくなると、カメラマンもレンズ越しじゃなく肉眼で眺めだすかもと、褒めちぎり……
「それは大袈裟ですよ///」と、
謙遜して恥ずかしそうに頬を紅潮させ俯くひまりの肩を自信持たせるように、軽快なリズム刻みながら叩く。
「もしストッキングに伝染がはいった時は気軽に声掛けて!予備があるから」
スタイリストは、
メイクボックスを片付けながら……
ドレッサーの上に、
ちょこんと置かれたものを見て……
(あれ?私、編集長からテスター預かったっけ?)
少し気にはなったが、デジタル式の腕時計が表示する時間を見て慌てる。
急ぐ理由は、
家康と信康のヘアセットと衣装チェックだ。一人ならまだしも、二人だと二倍の時間が掛かってしまう。
後で限定ルージュを塗るから待っているようひまりに告げ、ドアノブを回した。