第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
控え室……。その前で足を止める。
ここは、男性用モデルの着替え場所と休憩室の兼用部屋。何でもこのスタジオは主に化粧品メーカーが使用するらしく、女性モデルの出入りが多数を占めている為、わざわざ男性用のメイクルームはないとか……
前回の撮影時に、織田先生が狭いとか文句言ってスタッフに説明を受けていた記憶が一応は残ってた。
少し考えてから俺はノックして、中に入る。常識として。
別に……
「お疲れ。……着物とか初めてなんだけど……似合うかな?」
こいつ……
神木に気遣ったわけじゃない。
ガチャ。
俺は扉を閉めて、さも見ずに普通とだけ素っ気なく告げるとソファに座って、カラカラになった喉にミネラルウォーターを流し込む。
(暖房で余計に喉、やられたし……)
気持ち潤った喉。けど、いがいがした嫌な感じまでは水を飲んだぐらいじゃ直らない。
コンコンッ。
「スタジオ入りお願いしまーす」
「……今、行きます」
神木はスタッフに丁寧な返事をすると、鏡前で襟元をわざとらしい仕草で直す。
そしてふいに、
背後にいる俺に赤い瞳を向けた。
「……早く、行けば」
視線を合わせないように、
愛想なく言う。
けど……
「ひまり。気づくと思う?」
「……………」
その問いに俺は口を閉ざしたまま、
視線を動かして鏡越しに睨みつける。
「自信あるから無言?それとも……」
……自信ないから無言?
暫く沈黙があった後。
「ひまりは気づく」
「クスッ。割と自信あるんだね。まぁ、気づかなくても……ちゃんと撮影終わったら、ネタばらしするから安心してよ。このカットだけ、ひまりに内緒にしてくれたら良いからって編集長に頼まれたしね」
ラストカットは……
予定通り三人で撮影するんだし。
「急に俺が現れて、驚く姿もちょっと見たいけど……今日の所は悪戯するのはやめとくよ」
金色のサラサラの髪。猫っ毛を軽くセットした、今の俺とは正反対の髪質。
それを指に絡めながら、
神木は扉の向こうに姿を消した。