第54章 風待ち月(3)
教室の前まで来ると、中から騒ぎ声が聞こえる。
何だろう?
そう思いながら、中に入ると……
一斉に視線を浴び、
次の瞬間、
私は、固まった。
黒板に書かれた相合傘。
「徳川家康」「姫宮ひまり」
私と家康の名前。
でも私が知っている普通の相合傘じゃない。真ん中にギザギザと亀裂の入ったハート。まるで二つの名前を引き裂くような、そんな絵だった。
「ハートが割れてる……」
「……何これ」
隣にいた家康の訝しげな声。それを、私は何処か遠くのように聞いていて……
「ひまり!」
名前を呼ばれ、ハッと意識を戻す。ちょっと来て!ゆっちゃんは私の腕を掴み、そのまま引っ張るようにして廊下に出た。
「ひまり!あんなの気にしちゃダメだよ!!」
「う、うん。大丈夫だよ……昔も書かれた事あったから」
普通の相合傘だったけど。
ゆっちゃんは私の肩をガシッと掴み、心配そうな表情を浮かべる。
「朝一番に来た子が言うには、もう既に書いてあったみたいで」
消そうか皆んなで悩んでいるとこだったと。ゆっちゃんは話してくれた。
「もうすぐホームルーム始まっちゃうから」
消してこないとね!無理やり元気な声を作って、ゆっちゃんに少しでも安心して貰う。
誰が書いたかは、見てない以上わからないけど。
きっと、家康のことを好きな子が……。
(もしかして、手紙入れたのも……)
そんな事を考えながら教室に戻れば、さっきの重苦しい雰囲気は無くなっていて、皆んなの表情が一変して明るくなっていた。