第53章 風待ち月(2)
朝の通学、通勤ラッシュの混雑した電車の中。私は扉前の角の隙間に立ち、手すりを持つ。
ガタンッ…。
(二人ともいくら何でも近いよ///)
私の両隣に立つ二人。
電車が揺れる度、どっちかの体に寄りかかる形になって、つい意識してしまう。
「もう少し、離れてもらえないかな?///」
「やだ。痴漢に遭ったらどうすんの?」
「ひまり先輩みたいな、素敵な女の子。真っ先に狙われてしまいます」
家康は支えるように私の腰に手を添え、三成君は息がかかるぐらい近くに、密着していて……。
「もっと俺に身体預けて」
「先輩の香り。まるで花のようですね」
(まさか、これが毎朝続くの…?///)
頑張って一本早い電車に変えようかな。
でないと、心臓がもたない。
そんな私の気持ちなんて御構い無しに、
「い、家康!///何してっ///」
「電車が揺れるから。支えてるだけ」
腰を撫でるように動く家康の手。
「三成君もっ!///」
「私はただ、ひまり先輩の香りを堪能してるだけです」
私の髪を掬い、鼻先に近づける三成君。
痴漢から守るって……。
守ってるの?これは?
たった二駅の為の通学電車。
明日からバスに変えようかと、私は真剣に悩んだ。
電車を降りてすぐ私は、走る。
改札口を出てすぐにある交差点に向かい、歩道のガードレールに寄りかかる政宗の姿を発見する。
「政宗!」
「な、なんだ!朝から泣きそうな顔して」
私は政宗の腕にしがみ付き、後ろから追いかけて来る二人を無視して、
「もう、あの二人とは電車乗らない!行こう!」
「あ??……まぁ。大方、予想はつくが」
「それより、今日だよね!野外活動の班決め!」
前から一緒の班になろうと約束していた。ゆっちゃんと私。家康と政宗の四人。
点滅し出した青信号を急いで渡り、渡れなかった二人にべーっと舌を出しながら、政宗と早歩きで学校に向かった。
朝練が終わり、
下駄箱に入ってた一枚の手紙。
『このインラン姫』
「何?まさかラブレター?」
すぐ隣に居た家康。慌てて後ろに隠す。
「う、ううん!違うよ!……早く教室に行こう!」
私は笑顔でそう答えた後、そっと手紙をポケットの中に仕舞った。