第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
テーマは待ち合わせ。
「家康くんもひまりちゃんを抱き締めたら、目線はガラスに向けて」
「……わかりました」
ガラス越しに、
家康とカメラさんの姿。
二人の短い会話を小耳に挟みながらじっと待つ。
(抱き締められるってわかってるから、無駄にそわそわしちゃう)
変に身構えないように、
自然にしないと。
「二人ともリラックスだよー」
気分を切り替えるように、私はデートを待つ女の子の心境を想像してみる。
無色透明なガラスに映る自分の顔。
(ふふっ。早く、来ないかなーって顔してる)
ショーウィンドウの中を見ててもどこか落ち着かない様子で、緊張も喜びもあって、一秒が一分がいつもより長く感じるそんな瞬間。
自分に近づく人影が目に映って……
(あ……)
背中にずっと欲しかったぬくもり。
香りも息遣いも……
「……お待たせ」
家康の全部が届く。
パシャパシャ、シャッターの音。
「……身体、強張ってるけど」
「だ、だって///お待たせとか言うからっ」
それに声がちょっと掠れてるから、
まるで……
ーーひまりっ……
「編集長にそう言いながら、抱き締めるように指示された。動揺して……昼間から何考えてんの?」
ドキッ。
一瞬、心の中を見透かされたみたいで火を噴きそうなぐらい恥ずかしくなって、慌てて頭に浮かんだ映像をパッパッと頭の中を手で払いのけるような感じで搔き消す。
「何でもないっ///」
「考えてること顔に出すぎ。……ガラス越しでもすぐにわかるし」
ガラス越しで目が合う。
翡翠色の瞳が私に向けた眼差しは、何でも見通せるぐらい真っ直ぐで綺麗。
(もうっ、私のばかっ///撮影中に……)
言い返す言葉が見つからなくて思わず喉を詰まらせ俯くと、すかさずカメラさんに視線を戻すように言われて……
胸の辺りに回された腕に、
鼓動の音が伝わらないか心配になる。