第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
どんな顔してたのかな……
目の前にもし鏡があったら……
(……ざんねんっ)
ヒールをコンッと床にあてる。
鏡越しに見えたのにってちょっと後悔しながら、私は熱くなりかけた頬を冷やしながらスタジオに向かって足を進めた。
午後一時過ぎ、撮影開始___
家康が到着したらすぐに撮影がはじまって、私達はセットの中に移動。
「ライトかな?結構、ここ入ると暑いよね」
「俺も上着脱ぎたい……ゴホッ…」
ボソッと呟いて咳を一つした家康の目線の先は、私の腕。ファーマフラーは首に巻いてるけど、白のPコートは手に持っている状態。さっき、スタッフさんにそう指示を貰ったから。
「ふふっ、でも似合ってるよ?」
「似合ってるよ?」
「似合ってます!」
眉間に寄った皺を人差し指でツンってしながら笑顔で言い切ると、おでこから皺がなくなって口角が心持ち上がるのが見えた。
それよりまだ、喉痛い?
私がそう聞くと家康はすぐ治るから、ってお決まり台詞。怪我のことも毎朝欠かさず私が聞くといつも同じ台詞しか返ってこない。
スタッフさんの
準備オッケーの合図が響く。
「ひまりちゃん、そのクリアガラスの前に立ってくれ」
背景が濃い紺色に変わり、所々に描かれているのは大小まちまちの綺麗な雪結晶のグラッフィック。
そして一枚板の大きなガラスが、
セットの中に設置されていた。
「え?ただ、立ってガラスを見ていたら良いんですか?」
「少し予定を変更してね。横向きに取ることにしたんだ。後ろから家康くんが抱き締めに来るから、ひまりちゃんはショーウィンドウの前でデートを待ち合わせしている感じてお願いするよ」
編集長さんにそう言われ、指示通り腕を伸ばしてガラスに右手をつけ、左手にコートとバックを持って真っ直ぐ前を向く。