第243章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(30)時が繋がるルージュ編
四人が喫茶店に入店した頃__
「ごめんっ!ほんと、ごめんっ!」
道端に停車していた青いバイクに駆け寄って早々、手をパンッと合わせたのはオフショルダーの黒ニットにショーパン姿の弓乃。店をほっぽり出してまで駅前に迎えに来て貰った事に、心から申し訳ない表情をする。
「今、親父が店番してるから気にするな。それより、お前……上着ぐらい着てこい」
バイクに跨ったまま待機していた政宗。話しながら前輪ブレーキを握り、ニュートラルを確認し、キーを回す。
エンジンの音に消されないよう、
「急いで家を出たから忘れて……店内だし大丈夫かと思ってさっ!!」
「……俺が大丈夫じゃねえよ」
大きな声で取りに行く時間もなかったと話す弓乃に、少し気まずそうに答えた政宗。その声は完全にエンジン音にかき消され、「なんて?」と聞き返されたが軽く息を吐き、自分の着ていたブルゾンを脱ぐと……
バサッ!
まだ手を合わせたままでいる弓乃の頭に、それを被せる。
「いいって!全速力で走ってたからそんなに寒くないし!」
「全速力で走って来たのか?」
「そ、それは///兎に角!私は大丈夫!!」
揶揄われているのがすぐに分かり、
弓乃は返そうと上着に触れた時……
グイッ!
「ちょっと!!……っ…」
すかさず政宗は裾の両端を掴み、
自分のほうに引き寄せ……
唇を塞いだ。
「……これ以上、ごちゃごちゃ言うと、もっかい塞ぐぞ。大人しく羽織っとけ」
(こ、こんな所でっ///だ、誰も見てないよねっ!///)
心のエンジンがかかったように、
ばくばく鳴り出す心臓。
大きいブルゾンを羽織りながら辺りを気にして見ていると、近くの交差点で見知った顔を見つけ……
「ねぇ!アレさ神木くんじゃない?」
「あぁ?何だって?」
アクセルをふかし始めたバイク。
その声は政宗の耳には届くことなく……
(まっ!いっか!……それより…)
ヘルメットを装着して、バイクに跨ると弓乃は少し躊躇。何しろぴったりくっ付く体勢。
「早く、掴まれ」
「う、うん」
心の中で一日でも良いから、自分のコンプレックスをどうにかして欲しいと切実に願っていた。