第243章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(30)時が繋がるルージュ編
昼休憩が終わる十分前__
スタジオの中で喫茶店のデリバリーで昼食を済ましていた、編集長、スタイリスト、カメラマンの三人。
「メイクで誤魔化すか……でも、それだと後で画像修正が少なからず必要になるだろうなぁ。光の調整も。……それかアングルを横向きに……」
「出来なくはないです。ただ、切り傷だとシミや痣とは違って口を開いたりする時にヨレたりするので」
家康の傷が完治しておらず、その事で少々悩む編集長。どうしても傷があると撮影の合間、合間で細かく仕上がりをチェックする回数も増えてしまう。
「もう一人、モデルを頼んでいるんですよね?」
スタイリスト兼、メイクを担当している女性はある提案を持ちかける。
「それだと何か問題ありますか?」
「彼には最後の一枚だけをお願いするつもりだったからね……それに、うーん……どう思います?」
ギィ……回転椅子が動く。
「ひまりちゃんの表情は家康くんだからこそ、出来栄えがあがると思っているのが率直な意見だ」
前回の撮影で二人に手応えを感じているカメラマン。そう告げながらも、アングルを気にせず思いのまま自由に撮りたいのも本音だ。三人は納得がいくまで話し合いを続けていたが……
「もうこんな時間!そろそろ戻って来る頃なので、先にひまりちゃんを仕上げて来ます!」
「頼むよ。とりあえず彼がオッケーしてくれるかわからないからね」
「編集長〜〜もう一人のモデルさん来てくれましたよ〜」
絶妙なタイミングで、
スタジオに現れた信康。
「はい。俺は構いません」
「そうか。助かるよ!なら、ポージングの打ち合わせが終わったタイミングで二人に話をするよ」
「お忙しいみたいですから、俺が話してきます。今日、ここに来るの内緒にして欲しかったのは……」
二人を、
驚かせたかっただけなので。
あと……
信康はスッと前髪を搔き上げた。
「何でお前が……」
眉間に深く皺を刻み込んだ家康。
(ん?ルージュ?)
メイクルームの扉下に、
落ちていたのは……
『狐珠』の紅。
ひまりはそれを、
ひとまずドレッサーの上に置いた。