第242章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(29)時が繋がるルージュ編
話を聞けば、約束してた時間になっても店に小春川が来ないらしい。で、迎えに行こうと思って電話を掛けても出ないらしく……
「ったく。連絡なしで、かれこれ一時間だぜ?」
はぁーっ……。
政宗は別に苛立った口振りじゃなく、どっちかって言えば呆れたほう。スピーカー越しでもはっきり拾えるぐらい、盛大な溜息が聞こえて俺は思わず携帯を耳から離すと……
二、三秒後、また戻す。
「そんな事、俺にいちいち報告されても……」
「ばぁか野郎。誰がいちいちお前にそんな報告するかよ。電話したのは、ひまりの方に弓乃から掛かってきてねえか確認だ」
「ひまり、今は着替えてるから聞けな……『おっ!アイツやっと……』」
じゃあなっ!
「はっ!?……って…切れてるし」
プツッ……ツーツー……
何なの、一体……
政宗の一方的なやり取りに今度は俺のほうが呆れて息を吐く番。無機質な音を耳から離して、棒のようにその場に突っ立っていると……
ふわりと鼻をくすぐる、甘い香り。
「家康?どうしたの?」
その香りと声に誘われるように、俺は首を横に向ければ……
ドンッ!
今、流行りの何?
壁ドンとかヤツをしてて……
そっから、
正直あんまり記憶にない。
政宗から電話があったことを話した気もするし、それより先に唇を塞ごうとした気もする。
「い、いえやすっ!もう、撮影にいかないとっ!それに誰かに見られちゃう!」
壁に後頭部くっつけて、必死に回避しようと顔を横に向ける……黒髪のひまり。
しかもかなり短い。
ボブ?だっけ?
肩に擦れ擦れの漆黒のストレート。
白に近い淡い黄色の寝着。
「別に恋人同士なんだから、見られても困らない」
それより
こっち、向いて……
ゆっくりと俺を見上げる瞳は、
透明感のある琥珀色。