第242章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(29)時が繋がるルージュ編
あっという間に、
わらわらと周りを囲まれたひまり。
俺はその輪から離れた場所で……
や、ば……。
心の声か口から出ていたか、自分でも分からない声を隠すように口元に手を運び、その場から動けずに居た。
「ほんと、あの子には素直な反応するわね〜〜」
「家康先輩、どうなさったのですか?お顔が少し赤いようですが?」
「……煩い///」
近づいて声をかけようにも、緩みきった口元を戻すのにバカみたいに時間が掛かって……
「では、撮影はじめまーす」
気づいたらひまりはセットの中。
ポージング取りながら一人だと不安なのか落ち着かないのか、たまにチラチラと俺のほうに視線を向けるから……
「徳川くん、またニヤけてるわよ」
(っとに、どうしてくれんの)
撮影中、ずっと必死。
パシャパシャ!
シャッター音が、嵐のように響く。
「そう、そのまま!携帯を弄って唇を噛む感じで!」
「いいよひまりちゃん!じゃぁ、次はもうちょっと視線落として見ようか!」
セットの外で声を張り上げる編集長と、至近距離でレンズを向けるカメラマンの要望に応え……
「こんな感じ……ですか?」
ひまりはクッションを抱いて寛いだり、ベットで寝転んだり、スティクタイプのルージュが三本並べられたドレッサーの前で、笑ったり、視線を横向けたり、悩んだように首を傾げ……
ラスト!
そう声が上がると、
「家康くんに早く会いたい!そんな表情が欲しいな〜」
「えっ///……は、はい///」
数秒間を置いた後、ドレッサーに両肘を突いて手に顎を乗せる。一度、鏡に映る自分に視線を向け、そのまま視線を下に落とすと……ひまりは口元を上げ、伏せ目がちに微笑んだ。
ドクンッ!!
その表情を鏡に写り込まない位置で見学してた俺は……一瞬で心臓が止まりかける。
(何、アレ……///)
目がくらみそうになって目元を覆うと、三成は俺が具合が悪くなったのかと勘違いをして、騒ぎだす始末。
それを、
相手にする気にもなれず……
(はぁー……しんどい///)
平然とした態度で見学してるのが、
かなりきつい。