第242章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(29)時が繋がるルージュ編
「時間も思い出も色褪せないルージュ。俺はそれを目指している」
三十代半ばの編集長。白い歯を見せて若者のように笑えば、打ち合わせしてくると告げスタジオの奥に消える。
撮影セットの中に、
運ばれた家具と小道具。
背景は白のまま。
ちょっとしたワンルームが出来上がっていく。
薄いピンクのドレッサー。
木製フレームの全身ミラー。
ピンクを基調としたベット。
白いローテブル、白い三段のチェストクッションが二つにくまの縫いぐるみ。
(ひまりの部屋と変わんないし)
事前に調べたワケ?
って、突っ込みたいぐらい瓜二つ。
カメラマンと編集長が中心になり、スタッフ数人が慌ただしく動き出す。その様子を椅子に座って、ぼんやりと俺は眺めていた。
それは、もうすぐひまりがスタジオ入りする証拠。
「徳川くん、了承した割にあんまり気乗りしてないみたいね」
「……別に。普通ですけど」
隣に座る副部長に聞かれ素っ気なく返事。内心は気乗りしてないだけじゃ済まないぐらい、俺は不機嫌。
(そもそも雑誌用のピン撮影なんて聞いてないし)
編集長と遭遇した病院帰り。
カフェで提案されたのは、モデル名の記載は前回と同様しないのと、なるべくイメージや雰囲気を変えて、俺たちだと分からないように撮影を行うの二つ。
(何か、他にも企んでそう……)
やたらと「本番は午後だと!」張り切る編集長に理由もなく胸がざわつき、盛大に溜息を吐いた時。
「モデルさん入りまーす!」
その声に反応してふと顔を上げ、俺ははっとしたように立ち上がった。
「可愛い〜〜」
「これは、撮りがいがあるね」
スタッフやカメラマンの目線の先に立つのは、真っ白な部屋着を着て照れ臭そうにはにかんだひまり。その姿を見止めたカメラマンは、まだ撮影前なのにカメラを構え、まるで品定めでもするように、頭のてっぺんからつま先までをゆったりとレンズを向ける。