第239章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(26)時が繋がるルージュ編
裏庭の方向に歩いて行った、
黒いマントをひらつかせた後ろ姿。
(あれがもし……信康くんだったら…)
それっきり見ていないことになる。
高校生にもなると、小学校の頃みたいに朝のホームルームでよっぽどの事情がない限り、欠席の理由を先生は報告したりしない。
風邪かな??
今日も休みだったら織田先生に聞いてみようかな??
そんな事を考えながら、席に座り鞄の中に入っている教科書を机の中にしまっていると……
ポンッ。
机の上に置かれた、
一冊のファッション雑誌。
視線を上に向かって、
走らせようとした時……
ドンッ!
「わあっ!」
先に雑誌の上に誰かの両手が物凄い音を立てて乗り、思わずビクッと体が反応して椅子がぐらつき、危うく後ろにひっくり返りそうになる。
慌てて体勢を整え、顔を上げると……
「築城さん!?」
意外な人が目の前に居て、思わず素っ頓狂な声を出して私はまじまじと見つめる。築城さんはバスケ部のキャプテンであり、家康のファンクラブ会長。今でも活動しているかは定かではないけど……かつては、ライバル視?されて少し嫌がらせを受けたりしたけど、今は普通に会話が出来る仲。
「私を差し置いて、いつモデルデビューしたのかしら?」
ズイッと近付いてきた綺麗な顔立ちは、優しく微笑んでいるようにも鋭く睨みつけるようにも見える目をしていて……吊り上がった眉を見る限りでは、多分、後者かも。
「え??……モデルデビュー?」
「しらばっくれる気?私、この化粧品メーカー愛用しているのよっ」
首をかしげて聞き返すと、築城さんは雑誌のあるページを開き、私の目の前に突き出す。
(あっ!この写真!)
広告看板と同じカット写真。それが両開きのページに一面を使って載っていた。
「デビューをしたわけじゃなくて、これはその……頼まれて……えっと、築城さんモデルさんを目指してるの?」
さっき、確か差し置いてって……。