第238章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(25)時が繋がるルージュ編
特に深読みをしなければ、家康の意見が流れとしては自然だ。しかし、それにしては不自然な要素も揃いすぎている。
俺は脚を軽く前で交差し、両手をポケットに突っ込むと月を見上げ……
「ならば何故、先に俺らに知らせに来ない。貴様にも同じことが言えるが、後の面倒を避けたければ一番に取る手だ」
引っかかりを口にする。
「……文化祭中だったし。いちいち探すより早いと思ったとか?」
「匿名で掛け番号は非表示にしようとまで、冷静に考える暇はあったのにか?」
「それは………」
「……それにだ。もし、ひまりを助けていればそれなりの好感触を得れたかもしれん。……貴様のように、な」
疑問を投げかけた後、含みを持たせた言い方で「気づいておるのだろう?」そう付け足せば、家康はムスッとした表情で俺の方に向き直り「一体何が言いたいんですか」と、一切隠さずあからさまに不機嫌な態度をとる。
「恐らく、信康は全てわかった上で通報している」
ゆくゆくは通報者が自分だと。
俺らが調べるのも想定内でな。
編入してまだ日が浅い。運動能力や性格まではまだ把握しきれていないが……頭はキレる。過去最高だと言っても過言ではない程の難題を出した編入試験。にも関わらず、全教科満点合格。
家康や三成と引け劣らず、
頭脳明晰なのは間違いない。
ただ回りくどい方法を取り、最終的には不審に思われるのも覚悟した。
「なら警察に関わるのを避けたかったとか?通報者であれば、少なからず事情を聞かれるだろうし」
警察は呼んだが、警察には関わりたくない事情が何か……
助けたくても、助けなかった理由。
さっきまで全く興味を示さなかった家康も、ここまで辻褄が合わなければ流石に頭を捻り、眉間に皺を寄せはじめた。
「下手をすれば通報をする頃合いを伺っていた……信康が通報した時刻は、俺らが乗り込む十分程前」
「十分……正確な時間はわかりませんが……多分、あの男からひまりを引き離したのがその頃……」
意識していた訳ではないが、暴行を受けている時に視界には入っていたと……家康は腕時計に触れ話す。