第238章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(25)時が繋がるルージュ編
明かりの漏れた住宅街。
夜の闇そのものみたいに漆黒の空には月が浮かぶ。まばらな街灯が繫いで示す道は細く頼りなく曲がりくねり、今は団欒の時間が多いのだろう。人々の住まいと住まいを結ぶ街灯に照らされた道を車を走らせ、ある一軒家の前で停車。
数台はまだ余裕がある駐車場。
そこにバックでつけ俺はエンジンを切ると、コートを羽織りドアを閉める。
「この度は、色々と息子がお世話になりました。どうぞ、中に入って下さい。何か温かい飲み物でも、ご用意しますので」
気品が溢れた顔立ちとは違い物腰や話し方は柔らかく、俺を玄関先で出迎えたのは家康の母親。リビングに案内され、中に入ればそこには家康の父親だけでなくひまりの両親も揃っており、俺の姿を見るなり立ち上がり深々と頭を下げた。
「今回の件は二人の名は伏せ、空き教室に他校生が不法侵入し、学園の生徒がそれに巻き込まれた。とだけ説明したプリント配布を明日、予定している」
幸い家康の見た目は軽症。
父親の話では背中と腹部の怪我は長引くようだが普段通りの生活には支障ないと聞き、学校側は本人達の意思と両親の意思を確認してそう提案した。
「ご配慮頂き、ありがとうございます」
「先生達が総出で助けに来て下さったと、 ひまりから電話で聞きました。本当にお世話になりました」
ひまりの両親は感謝の言葉を心から述べ、心に深い傷を負うような事態にならずに良かったと安堵の息を漏らす。
その姿は一切、嘘偽りない愛情のある姿に俺は見えた。
「もし、良ければ先生もご一緒にお夕飯どうですか?」
「家康くんが持って帰って来た焼きそばをアレンジして、広島焼きを作ろうかと話していた所で」
母親二人の申し出をそれとない理由で断り、家康の居場所を尋ねる。