第236章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(23)時が繋がるルージュ編
編集長は両手を膝の上に乗せ、改まった格好をすると「ぜひ、モデルをお願いしたい」と頭を下げる。
ひまりは慌てて口を付けていたミルクティーの入ったティーカップをソーサーの上に戻すと、編集長に頭を上げて欲しいとお願いをして……
チラッ。
(でも……私だけじゃ決めれないから)
返事に躊躇い、そして何処と無く渋い表情をした家康を一瞥。撮影は楽しかったし、良い経験をさせて貰い編集長には感謝していたひまり。しかし、相手役である家康の怪我のこと。それと、先ほどの駅前での騒ぎの事を考えると即答できずにいた。
「引き受けて貰えないか?勿論、モデル料は支払うつもりだ」
「い、いえっ。モデル料なんてっ。ただ……」
「……………」
(やっぱり、家康は嫌なのかな……怪我もしてるから、無理もして欲しくないし……)
口を重く閉ざしたままの家康。「ルージュのイメージモデルは君しかいないんだ!」何なら専属モデルにさえなって欲しいとも考えている編集長は、前回と同じように熱烈なオファーをひまりに続ける中、副部長と三成が横槍を入れる。
「凄いじゃない!一度ならず二度もなんて!」
「家康先輩。今回は思う存分、ひまり先輩を独占出来て宜しいのでは?」
さんざん人の恋路の邪魔をしておきながら、調子のいい事をケロッと言ってのける三成。終始向けられたエンジェルスマイルに家康はうんざりして、眉間に皺を寄せ「都合良すぎ」ブツブツ文句を言う。
遂には、副部長もひまりの説得に加わり始め……
「何を迷ってるのよ!因みに撮影見学は出来ますか?記者志望の私としては、撮影現場とかぜひ見てみたいわ!」
「構わないよ。ぜひ、来てくれ」
「なら、弓乃と伊達くんも誘おうかしら?ねえ、三成くん?」
「それは良いですね。後で政宗先輩にご連絡を……」
「三成、勝手な事するな。俺もひまりもまだ、引き受けていない」
隣でいそいそと携帯を取り出す三成に、家康は釘を刺すかのような目を向ける。