第52章 風待ち月(1)
中二の梅雨。
教室の黒板に大きく書かれた、相合傘。
『目撃!相合傘の二人!』
もう少し、ネーミング捻れないの?
と、突っ込みかけてやめる。
私は、今日も窓際の一番後ろの席に座り教壇の上で騒ぐ男子を横目に、
(どんな反応をするのかしら?)
ワクワク。
あの二人。
黒板に書かれた名前。
興味津々で私は見た。
『徳川家康』
最近密かに人気上昇中の男の子。
二年生ながらにして、すでに弓道部のエース。成績は学年トップ。女の子みたいな顔立ちの彼だけど、最近少しずつ成長期を迎えしなやかに鍛えられた筋肉と、伸び始めた背が人気を確実に上げ始めた理由。
捻くれ者で近寄りがたいイメージ。
でも、女子は心が少しずつ成長していき……。
そのツンツンが堪らなく、
キュンキュンする事に気付き始めた。
『姫宮ひまり』
通称、姫。
徳川君の幼馴染で、人懐っこくて男女共に大人気。華奢な身体、栗色の長い髪、大きな瞳に透き通る白い肌。まさに現代の姫。スポーツ万能なのにドジ。素直で真っ直ぐな性格。鈍感なのに人の気持ちを自分の事のように、泣いたり笑ったりする女の子。男子の大半は恋心を抱いていて……。
(好きな子イジメるなんて、まだまだ子供ね)
フッと鼻で笑う、私は何様でもない。
勝手に青春時代に潜り込んだ、
「苺まるけ」です。
すいません。
ついに妄想の世界。
自分の作品の中にまで、現れてしまいました。
ガラガラ……。
「ひまりが悪い」
「家康が意地悪するからでしょ!」
お待ちかねの二人が、教室に入ってくる。それを見て、ニヤニヤと笑う男子とその隣で消しなよ!と必死に黒板消しを掴もうとする女子。
その異変に気づいた二人はやっと言い合いを止めて、
「………」
「な、何これ!?」
無言の徳川君の横で、ひまりちゃんは目をパチパチしながら黒板を凝視した。
「昨日見たんだよなぁ〜」
「お前らが相合傘で、帰ってるとこ」
「やっぱ付き合ってんのか?」
三人の男子は徳川家康君の肩に寄りかかり、からかって反応を楽しむ。
ひまりちゃんのこと好きだからって、そんな幼稚なことしなくてもと思いながら、ついニヤケてしまう悪い私。
けれど、二人の心情を描きたくなり一旦退散することに。