第234章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(21)時が繋がるルージュ編
首を動かそうとすると、
家康にそのまま前を向いていた方が良いと言われ、暫くはショーウィンドウを見つめ大人しくしていたけど……後ろ向いているにも関わらず、最初に声を上げた人達の声を聞きつけたのか、どんどん人が集まり始め、私は家康の両腕の中でおろおろとする。
「どうしよう!いつの間にか人がっ」
「……歩いてる時に妙に視線感じるとは思ってたけど。……ってか移動しようにも、微妙に囲まれてるし」
はぁー……。少し曇ったガラスに映る家康の翡翠の目。それが盛大なため息の後にスッと横に動く。
私の視線は少し上に移動して、
ある物を目を凝らして見る。
背後のビルに付けられた広告看板。
昨日、買い出しの帰りに発見した時はただ驚くばかりで……恥ずかしくて……そそくさとその場を退散。
多分、付けられたのはそれこそ昨日あたりかも。文化祭の準備とかで皆んな忙しくてそれどころじゃ無かったっていう理由もあるかもしれないけど……
(クラスの皆んなも、撮影のこと知っているゆっちゃんも特に何も……)
小さいカットは確かに私は正面を向いていたりして、ぼかしは一切入っていない。でもプロのメイクさんのお陰で、別人みたいに見えるし、一番大きなカットは私は目を瞑っていて、家康は伏し目がち。知っている人が見れば私達だって気づく程度かな?って、気楽に考えてしまっていたけど……
周りの目は思っていた以上に鋭くて敏感だと言うことに今、実感する。
「あ、あの!広告のルージュモデルの方じゃないですか!!」
「その制服!お二人共、戦国学園の生徒さん!?」
背後から声を掛けてきた同世代ぐらいの女子高生。一斉に視線が集まるのを感じて、ガラス越しに私が「どうしよう」と目線で尋ねると……
家康は「チッ」と、短く舌打ちして……
「ひまり。……こっち向いて」
頬にかかった髪を私の左耳にかける。
その囁き声に惹かれるように、
ゆっくりと顔を横に動かすと……
チュッ。
唇に柔らかいものが触れた。