第234章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(21)時が繋がるルージュ編
周りのどよめく声。
私はさっぱり状況が掴めずキョトンとして瞬きを二回繰り返した後、スローモーションの映像のように、ゆっくりと顔が離れていく家康を追いながら……
(い、ま………)
まだ柔らかい感触が残る唇に触れて、やっと状況を飲み込む。
「なっ///何で………」
「良いから。……いつもみたいにして」
いつもみたい……?
聞き返す前に、塞がれた唇。
家康は鞄を二つ無造作に足元に下ろすと、片手をガラスに突き、優しく私の頬や髪に触れながら、唇を啄み、舌を吸い、更に口内を犯すようにまさぐり始める。
それは、普段たまに学校や外でする
「いつもみたい」な、キスじゃなくて。
家康が私を抱く前にする「いつもの」キス。
(な、んで急にっ……こんなに沢山、人が居る前で……)
人通りが多い時間帯と場所。
そんな公衆の面前で、好奇の目に晒されて、考える余地さえ与えて貰えず、私は戸惑い、もう逃げ出したいぐらい恥ずかしい。
「ンンッッ!!//////」
「まだ……」
舌を執拗に絡められながら、深いキスを繰り返していく内に、胸が息苦しいほどドキドキして、羞恥心なんてあっと言う間に消し去ってしまい……
(こんなキス……外でずるいよっ…)
真っ白になっていく頭の中でぼんやりと思った。
「はっ…ぁ、……い、えやす…」
ガラスに預けていた背中がズリッと滑り落ちる頃には、頭の中も心も身体も全部蕩けてしまいそうな感覚に陥って、立って居るのもやっと。
潤んだ視界。
自覚するぐらい熱を帯びた頬。
私は薄っすら口を開け、空気を必死に吸い込む。
すると、
顎をクイッと高めに持ち上げられ……
「………人違い。……俺の彼女のキス顔と全然違うから」
もっと、綺麗で……
やばいぐらい可愛い。
家康は少し顔を後ろに向け、
私の顔を見せつけるように、
声を掛けてきた二人にそう告げた。
どんな顔して言ったのかは、
見えなかったけど……
「ご、ごめんなさいっ!///」
「やばーい///あの女の子、エロかわだったね///」
「ご馳走様」
私に見せたのは、凄いドヤ顔。