第234章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(21)時が繋がるルージュ編
病院の敷地から出て暫くした後、急にゆっちゃんがピタッと立ち止まる。アスファルトに映る影。それがゆっくりと横向きに動くのを見て、私もつられて足を止めると……
「次は、ひまりの番。ゆっくりで良いから。言える範囲で良いから。無理しなくて良いからさ」
話したい、聞いて欲しい。
そう思ったことを何でも言いな。
ゆっちゃんはそう言いながら少し頭を下げて、あまり身長差がない私の顔を覗き込む。
「ひまり、変な所で我慢とか遠慮するからさ。そんなの要らないからねっ!」
いつも言ってるけどさ!
視界いっぱいに広がった眩しい笑顔。ゆっちゃんは明るい声で最後にそう言うと、白い歯を見せて、肩まで伸びた茶色の髪を風で揺らした。
「ゆっちゃん……」
言いたいこと。
あるような。でも、ないような。
ただ今は、その気持ちが凄く嬉しくて、いっぱい過ぎて、あったかくて……何にも出てこない。
それが、上手く伝えられないもどかしさ。
だから……
バサッ!
「わっ!」
私は手に持っていた鞄を落としながら、
ガバッとゆっちゃんに抱き着くと……
「ありがとう。でも、無理なんかしてないよ。……ただ、今は……ゆっちゃんの告白シーン!もう一回、聞きたい!」
一番、聞きたいことを言う。
「へ?は!?……ちょ!///声大っきいって!///」
「何なら、俺も。もう一回……聞いてやろうか?」
いつの間にか追いついていた政宗。
ゆっちゃんの腰元を引き寄せ、揶揄いながらも何処か優しさも含んだ目を向けていた。
「い、言わないわよっ!///」
「俺は遠慮しとく」
家康は私が落とした鞄を拾うと、手をしっかり繋いでくれて……
「だから、言わないってば!///もうーっ!ひまり!!」
「ふふっ。だって、聞きたいんだもん!あ!家康!鞄は自分でっ!」
「肩は負傷してないから。それより前向いて。……それこそ、怪我する」
私はクスクス笑った後、繋いでいない方の手を目一杯、家康の肩に向かって伸ばした。
アスファルトに並んだ四つの影。
大きさも形も全然違うけど……
駅に向かう私達四人の歩調は、
ほとんど一緒だった。