第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
保健室には似つかわしくない匂い。
たこ焼きや焼きそばの匂いが、備え付けられたエアコンの風に乗って流れてくる。
キャニスター付きのサイドテーブルの上には、文化祭の模擬店で販売されているパックの数々が並ぶ。さっき保健室に戻って来た明智先生には、他の教員に見つかるとあれこれと煩いから、中から鍵を掛けておくように言われた。
「食べたらすぐに病院行こうね?」
「わかってる。……にしても、三成のヤツ何考えてるわけ?こんなに大量に……どうすんの?」
5パックもある焼きそばにうんざりして、長い息を吐く。
ベットの上でさんざん愚痴をこぼしながら、焼きそばを頬張る。横向きに座る俺と正面になるようにひまりはパイプ椅子に座り、たこ焼きを食べ嬉しそうに頬を緩ませた。
「ふふっ。副部長のクラスだから張り切ったのかも!」
貢献しかったんだよ!きっと。
そう言って微笑むひまりの目元はまだ赤い。あれから絶対に謝らないこと、病院に行くという前提で、泣きながら俺が空き教室に行くまでの間に何があったかぽつりぽつりとひまりは話した後。
最後に……
ーーロッカーに逃げ込めたのは、誰かが廊下で大きな音を立ててくれたお陰だったんだけど……誰だったのかな?
唯一、それが府に落ちない様子で首を傾げていた。
「はい!たこ焼き!最後の一個!」
「あー……いっ!!」
「あ!あんまり大きく開けたら、口端の傷が開いちゃうよっ」
二人で文化祭気分を味わいながら、あの騒動がほんの数時間前の出来事には思えないぐらい、穏やかな時間を過ごす。
「ねぇ、家康?さっきも……目、抑えてたけど。最近、多いよね?もしかして、夏の大会の時のスプレーが原因とかじゃない?今日、もう一度病院で見てもらった方が……」
「……大丈夫。多分、本の読み過ぎかなんかで……疲れてるだけ」
「ほんと?それなら、良いんだけど。……無理しないでね?前にも約束したけど、もう一回!」
ピンと小指を立てるひまり。
俺はその無邪気な笑顔に口元を緩め、
……無言で自分の小指を絡ませた。