第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
奇妙なほど落ち着きを払った、
静けさの漂う保健室の個室。
「謝って欲しくない」
そんな中で凛としたひまりの声は辺りにも、俺の耳にも良く響いた。
「泣かないよ。……もっと強くなる……強くなりたいの。だから、何にも……っ、家康は何も悪くないのに……謝らないでっ」
「……間接的とは言え。俺が原因で怖い思いも辛い目にも合わせた」
真っ直ぐな瞳から、
思わず視線を逸らしたのは俺の方。
鉛のように重い身体。
時間が経過していくにつれ炎症起こし腫れてはいるが、そんな痛みより俺には……この手首の痣が。ひまりを巻き込んだことの方が、遥かに痛みを伴う。
細い手首。
少しでも力を加えたら折れそうなぐらい、頼りなくて儚さまで感じる。
(小さい頃は、それほど差がなかったけど……)
今は全然違う。
俺よりかずっとか細いし、手も小さい。
今も昔も。
守りたいし、守ってあげたい。
ただ、そう強く思えば思うほど……
守れなくなっている気がする。
そっと持ち上げ、口元に手首を運ぼうとすると……春風が舞い上がったように、俺の周りを擽るように届いた花の香り。
視線を戻せばそこにはベッドサイドにしゃがみ込み、俺を見上げたひまりがいて、さっきとは逆の体勢になる。
「話すのは本当に辛かったよ。……だって、家康が酷い目にっ、あってた時のこと……思い出さなきゃ、いけ……なかったからっ……」
ひまりは声が震えそうになると、俺が掴んでいる手に握り拳を作って、さっき目元を拭おうとした俺の手をそこに重ね、小さい手で包み込んだ。