第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
静かな沈黙が流れた後、革靴の音が一つなり、白い布団に影がフッとそこに落ちる。
いや、落ちた瞬間。
グイッ!!
突拍子もなく耳朶が引き千切れるぐらい、横から強く引っ張られ……
「いっ!!」
「貴様に仕置をやる……とっととひまりと飯を食って、ささっと病院で診断書を貰って来いっ!」
鬼は容赦無く耳元で怒鳴りつけた。一気に体の痛みが呼び起こされたように、俺は顔をしかめ、眉間に深い皺を刻み、口角をピクリと上げ歯を強く噛む。
「ちょ…っ……いっ、…」
「せっ、先生!怪我してるのに、無茶はしないで下さいっ」
織田先生の隣に立っていたひまり。慌てた様子で俺の体を気遣い、心配そうな声を上げるが……鬼は全く御構い無しで耳を広げるように、グイグイと強く引っ張り続け……
「この騒動で少しは頭を冷やせただろう。後は、貴様がどんな暴行を受けていたか……詳しく事情を話したひまりの事を考え、今後しっかりと胸に刻んでおくんだな」
「詳しくって……まさか、この痣っ…」
声を上げれば、ようやく耳を解放される。俺は真新しい痣の原因に想像がついて首を動かし、視線を合わせようとすれば……
視界に入ったのは……皺一つ見当たらない、黒いスーツ姿の背中。
既に広い背中を向け、
「辛い想いをした一番の理由。聞いてやれ。お前にとって、一番堪えるだろうからな」
そう最後に告げ、織田先生は白いカーテンの向こうに姿を消す。今、保健室に明智先生や他に誰もいないのか……特に会話する声も聞こえず、すぐに扉の音が開閉する音だけが届いた。
二人っきりになった保健室。
沈黙が流れそうになったが、俺は掴んでいた手首を解き、右側に立つひまりの頬に触れる。