第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
すると、視線を逸らして「ちょっとねっ」ひまりは歯切れ悪そうに誤魔化した後、大したことないと笑い、織田先生が来るまでの間に昼食を食べようと話をすり替えた。
「……どう見てもちょっとじゃない。……あいつに……やられたの?」
目を真っ直ぐに見て聞いてるつもりが、何故か俺は上手く焦点が合わせれない。ひまりは目を合わさずに、さっき書類を置いたサイドテーブルを見つめたまま、一瞬の間だけ笑みを消してまたすぐに笑うと、明るく振る舞う。
「すぐに治るよ!それより、お腹空いちゃった。ね?食べよう?焼きそばとかたこ焼きとかちょっと冷めちゃったけど、今、取って……っ!!」
「良いから。ちゃんと見せて」
俺は手を後ろに引き、カーテンの向こうに行こうとするひまりを引き寄せ……
(……こんなに……)
手首を掴んでいない方の手でブレザーを少し捲し上げた。左手首に付いた内出血のようなくっきりとした痣。
元々色白なのもあるけど、大分強く握らないと出来ないぐらい掴まれた形跡がそこにはあった。
そこに視線を落としたまま、
「………ごめん」
俺の口は自然とそう零す。
「な、んで……何で家康が……」
語尾につれてひまりの声が震えたと思って、ハッと顔を上げれば……
「何で家康が謝るのっ」
「ひまり……」
怒ったように眉を寄せたひまりが、そこに居た。同時に涙がぽろぽろとひとりでに零れたように流して、歯を食いしばると……その涙に自分自身が一番驚いたように顔を勢い良く横に向け、ひまりは体を小刻みに震わせた。
思わず呆気に取られていると、
シャッ……
背後の白いカーテンが開く。
「……何を騒いでいる」
「……先生……何でもありません。……大きな声をだ、してしまってすいません」
突然、声も掛けずに入ってきたのは、織田先生。その第一声にひまりは俺に掴まれていない、もう片方の手でブレザーに涙を染み込ませるよう目元を拭った。