第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
目を覚まして、
まず最初に見えたのは……
「……ごめんね。起こしちゃった?」
ひまりのほっと安心した顔。しかし数秒後、入れ違いにその顔の上に困惑が広がり、俺の手に触れていたぬくもりが強まった。恐らくぼんやりとした意識の中で俺は……肉体の神経が先に戻り苦痛な表情を浮かべたか、声にならないような短い声を上げていたのかもしれない。
(……ここ。……確か……)
まわりを見回したとき、自分が今どこにいるのか一瞬わからなかった。それから白い天井、白いカーテンを見回し、嗅ぎ慣れた薬品のツンとした匂いが鼻を刺激する。
保健室。
「……俺…いつの間にか寝て………っ!」
「無理しないでっ。……少し前にね。警察のかたと織田先生が来てくれて。今は空き教室に」
上体を起こそうとすると、身体のあちこちに重い痛みが走る。シーツと布団を掴み、背中を少し浮かせるとひまりは慌てて立ち上がり、俺の背中に手を添える。そしてしゃがみ込み床から何かを拾うと、埃を落とすように手で数回それを払った。
「書類に名前とか記入してたら、手が滑って落としちゃって。後で……家康の名前も書いて欲しいって……」
さっきのカタンとした音の正体。
どうやら書類が挟まれたクリップボードだったらしい。
ひまりはそれをキャニスター付きのサイドテーブルの上に乗せる。そして、また俺の隣に戻るとお腹は空いてないかとか、何か飲むかとか、痛みはどのくらいだとか、しきりなしに聞いてくる。
「あのねっ!副部長と三成くんがいっぱいね!持って来てくれてっ。明智先生も飲食特別に許可してくれてねっ」
「……後で食べる。それより……これ、どうしたの」
俺は手首やんわり掴み、尋ねる。
さっきクリップボードを置く時に、
一瞬だけ見えた。
ブレザーの下に隠れた、手首の赤み。