第233章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(20)
俺は夢を見た。
夢の中で、
そう自覚ができるような奇妙な夢。
綺麗な月夜の晩……
襖を開けば……
そこに一輪の花が咲いている。
奇妙なのは、
襖に触れる感触が夢の中でも伝わり……
ーー……おかえりなさいませ。
耳が集中したように、声を拾い……
腕を伸ばせば……
意思通りに動き……
ーー……ただいま。
俺に向かって笑いかける花に……
触れることが出来る。
甘い香りが鼻孔を擽り、
あたたかい温もりまで伝わり……
鼓動が打つ律動さえ感じる……
夢の中で俺と、
夢を見ている俺が……
まるで一体化したような。
二つの異なった世界が……
一つに重なったような、
空間を持った夢だった。
カタンッ。
「んっ………」
瞼をゆっくり持ち上げ目覚めた時には、微かな切れ端が意識の何処かに引っかかり……
「……ごめんね。起こしちゃった?」
小さなぬくもりが、
俺の手に触れた次の瞬間には……
僅かに残っていた脈路のない短い断片が……跡形もなく消えていた。