第232章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(19)
保健室から教室に戻る時。
ひまりはふと、視界の端に入ったある人影が気になり廊下から窓に目線をずらす。最初は早歩きで追っていた人影。
(あれって……信康くん?)
黒いマントをひらつかせた後ろ姿。逆光で少し見えにくくひまりは足を止め、ひたいに手をくっつけて光を防いだが、その時には既に人影は裏庭のどこかに消えていた。
そして教室前まで戻り……
「あれーっ?信康くんがいない!?」
「えーっ!休憩時間、一緒に回ろう!って、誘うつもりだったのに〜」
おばけ屋敷の入り口になっている、後ろの側の扉付近。そこに立つクラスメイトの女子数人の残念がる声が通り過ぎるか通り過ぎたかぐらいの時に耳に届き……さっき見た人影が信康でほぼ間違えなさそうだとひまりは思いながら、前方の入り口から教室の中へと足を踏み入れる。
すると、制服を取りに来た時に姿が見えなかった弓乃が真っ先に駆け寄り、お互い「あ!ゆっちゃん」「ひまり!」同時に名前を呼び合うと……
「「心配してたんだよっ!」」
次には同じ台詞が口から飛び出し、二人は驚いて瞳をぱちくりと数回瞬かせていると、弓乃の背後から政宗が現れ……「仲良過ぎだろ」と、笑いながら軽口を叩いて突っ込んだ。
「ゆっちゃん!あの時、一体……」
「それは後でじっくり教えてあげるからさっ!それより、はいっ!弓乃特性、誰かさん専用、激辛プリン!と、ひまりの荷物」
「え……」
「悪い。こいつだけには事情を話した。ほら、家康の荷物。持っててやれ」
「わぁ!」
ひまりの手に、弓乃と政宗はカバンを二つとプリン二つが入った袋を手渡す。激辛がどっちか分かるように、一つにはマジックで「弓乃専用」と書いてある事を弓乃は伝えた後……
ひまりに近づき……
「今から政宗と休憩時間まわってくるからさっ///」
耳元でそうボソッと呟く。