第231章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(18)
まるで薄日が差すように、ふわりと一瞬だけ自分に見せた笑顔。そのいままで見たどの笑顔にもない愛情を包み込むような光を感じて……家康はとてつもないいとおしさが胸に迫り、名前を呼ぶので精一杯だった。
「それにあなたは、決して弱くない。自分の想いを伝える強さがある。こうして、この場に来れる強さがある」
もっともっと伝えたい事はいくらでもあった。しかしひまりは、これからどんな形でしろ、遅れてからでも後からでも、きっといつか知る機会が訪れるのではないかと。
弓を握り続ける限りは。
家康の背中だけでなく、横顔……
そして正面から見た時、その強さの本質に気づいて欲しいと。
(私も気づくのに。時間が掛かったから……)
そう、思い口を閉ざした。
幼馴染として長い時を過ごし、夏の大会にやっと心に掛かっていた鍵が外れ、気づいた自分の想い。
正面から弓を射る家康の姿。
まぶたの奥に浮かび、心で感じたのだ。
家康の真の強さと真っ直ぐな心を、いつかこの青年にもそれに気づいて欲しいと願った。
床にキラッと光る……
刃が剥きだしになったカッター。
信長はそれを拾い上げ、
「愚かなのは、貴様ら三人だ。しっかり罪を償え。本来ならば、一度目も重罪だ。だが……しらを切った家康にも、それは非がある」
スッと視線を背後に向ける。
家康はそれに気づいて、一度は斜めに下に視線を下ろしかけたが、すぐに正面に戻して、信長の目を見返した。
「お前は保健室でたっぷり絞られろ……ひまりからな」
「一番、堪えるぞ」
秀吉と光秀に支えられ、
空き教室から出ていく家康。
「ほら、立て」
「ゆっくり話しは聞いてやる」
入れ違いで警察官二人が空き教室に入る。事情は署で聞くと言い三人の他校生は連行され、ひまりが詳しい事情を知ったのは、それから数時間後の保健室にいた頃だった。