第231章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(18)
信長に掛けて貰ったマント。
ひまりは家康に声を掛け、ほんの少し身体を離すとそれをしっかりと身体に巻きつける。
「おっと。お前ら何処に行くつもりだ」
「諦めろ。じきに警察がここに来る」
ドサクサに紛れて逃げようとしていた、明るい髪色のチャラい男子生徒とインテリ風の男子生徒。政宗と光秀が入り口を塞ぎ、それを制止。そして三成の隣にいた他校生の一人が、体格の良い男の元に駆け寄った。
ガシッと制服を掴むと、
「兄貴!わかってんのかよ!こんな事したら、今度こそ弓道部が廃部になるだろっ!」
「廃部になりゃいーだろ。あんな顧問のいいなり部。どうせ、部長のお前が弓を握れねえんだからな。……此奴らの所為でな」
その会話でひまりは二人が兄弟なのを知り、突き刺さるような視線を浴びたが、それを遮るように信長が前に立つ。
「貴様らの話は三成から聞いた」
カツカツッ。
実に下らない話をな。と、言い放ち、体格の良い男子生徒の胸ぐらを思い切り掴み上げ……
「くっ!!」
「下らん理由で、俺の生徒に一度ならず二度も」
ギリギリと締め上げる。
その台詞に、誰よりも早く反応した家康。秀吉とひまりに一刻も保健室に行くように促されていたが、少し待って欲しいと頼み、視線を向けた……信長の広い背中に。
「弟が夏の大会で優勝しなければ、廃部になると顧問に脅され……三年の貴様らは引退土産のつもりか?自分らを予選であっさり破った家康が棄権するよう。……腹いせに姑息な手を使い」
最初は淡々とした言い方が、
語尾になるにつれて低さが強まる。
「ぐっ……!」
喉を直接締め上げられたように苦しげに声を上げる。それでも信長は手を緩めることはなく、体格の良い男を軽々と唸らせると……
弟が止めに入る。
「ま、待って下さい!あの時、プレッシャーに負けて一本目から外して……徳川を妬んだのは俺も同じです」
自分は弓道一本でほぼ青春を注いでいたにも関わらず、中学から大会で家康には一度も勝てず、ずっと二番手。いつか勝つと執念深い想いを抱き、練習や方針が厳しいとは知りながら、兄を追うように弓道の名門校に入学したことを話す。