第231章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(18)
窓ガラスの割れる音。
パトカーのサイレン音。
ほぼ、同時に聞こえ……
信康は曲がり角に身を潜め、静かに携帯をズボンのポケット仕舞う。通報してから、十分も経っていない頃だった。
(割と早かったね……)
壁に後頭部を預けて、暫く何かを考えるように目を固く閉じた。複雑な思いを巡らせ、深い息を口から吐き出す。間に合って安心した息か、それとも別の想いから吐き出した息か……
本人さえも分からずにいた。
隣の教室からベランダをつたい空き教室に移動した光秀と秀吉は、鋭い視線をまず他校生二人に突き刺す。
「覚悟は出来てるよな?」
「くくっ。弓道の名門校として、恥を知れ」
まずい!と顔に書いたように、青い顔を浮かべるが、もう一人は慌てふためくことなく短く舌打ち。
「顔も一発やられてるじゃないか。……大丈夫か」
「秀吉先輩……な、んで……っ!」
歩み寄ってきた秀吉。フッと特徴あるタレ目を優しく落として肩に手を乗せると、家康は今まで忘れていたかのように体中に激痛が一気に走り、苦しげに顔を歪ませ体をくの字にして、ひまりを腕の中に閉じ込めたまま、腹部を抱え込む。
「家康!?」
ひまりがまた引っ込んでいた涙を目に集め、心配そうに頬に触れれば、大丈夫。だと、掠れた声で家康は答えた。
そして……
「ここかっ!?」
「確か、そう……」
「兄貴!!いるんだろう!?」
政宗と三成、そして他校生の一人が扉を訴えるようにダンダンと鳴らして、取手を掴み揺らせば、瞬時に光秀は長い脚を俊敏に動かして、鍵を開ける。
カチャッ。
なだれ込むように、三人が中に入るとその背後から……
「……退け」
信長がゆっくりと空き教室に、踏み入った。