第230章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(17)
背後の二人が家康を引っ張っているみたいで、背中に隙間が開き、さっきまで感じていた体温が消える。
「離せよっ!」
「離してっ!」
片腕にだけになっても、家康が声を荒げ、必死に私を自分の方に戻そうとして、抵抗。私は捕まった右腕を必死に振りほどこうと、上下に動かす。
「確か左利きだったよなぁ〜」
「前みたいに、警察沙汰にはしないだろう?」
「二度と弓を握れなくして、大事な女を目の前で奪ってやる」
憎悪……。その二文字が瞬時に脳裏を掠めるほど、男の人の顔が歪む。妬み、嫉妬、憎しみ、悲しみ、怒り、そしてその中に混ざり合ってしまった、弟さんを思う気持ち。
(この人は……自分が正義だと勘違いしてっ……)
同じ痛みを与えようとして、それを味あわせて、そんな事をして得るもの一つもないのに。
家康のこと何にも知らないのに。どんな気持ちで大会に挑んでいたか、どんな気持ちで私にメダルをくれたか……優勝の中に込められた、時間、強さ、責任感、苦労。
見えにくくても……
あの優勝の中には、沢山あるのに。だからこそ、首にかけて貰った時の重みは半端なくて……本当に嬉しかった。
「何にも知らないのにっ!簡単に手に入れたみたいにっ言わないでっ!」
知らないのに。知らないくせに!
「お前らこそ!何にも知らねえだろ!」
「うっ!……くっ!」
引き離される一歩手前……
「たっぷり、可愛がってやるよ」
その声が、
頭上に降り注ぐのと同時に……
ガシャァァァッン!
黒いカーテンの向こうで、硬質な砕けちる派手な音が鳴り響き、廊下を走る複数の足音までも立て続けに響いた。