第230章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(17)
あっけないほど、あっという間。
束の間のぬくもりだった。
もつれ合うように抱き合ってすぐ、両側に立っていた二人のどちらかが……
「ふざけるなよっ!」
ドカッ!!
家康の背中に衝撃を与える。
「くっ!!」
「家康っ!!」
頭上で上がった短い声に、ハッとして顔を上げれば、片目を瞑り痛みを堪える家康がそこにいた。
背中に回った腕。ギリギリと締め付けるように力が入る。最初は、痛みを紛らわせたのかと思ったけど……
「何が何でも離さないとか?」
「俺ら女の子に飢えてるからさ。ちょっとぐらい貸してよ」
違う……。
私を守ろうとして取っている行動。
まるで見なくて良いと言うように、胸の中に頭を押し付けられた私には……
二人の声と。
家康が体に受けている衝撃。
それを、ただ振動として私は受け止める事しか出来なくて……
「反撃する力は、流石に残ってないようだな」
背後から聞こえた声に、体が恐怖を覚えているのか肩をビクつかせると、剥き出しの右腕に跡が付くかと思うほど、指が食い込む。
ギィ……
空気を断ち切るように、床の上で何かが擦れる音が耳を刺す。
(何で……っ…ここまで……)
その音の正体が、さっき家康が投げつけた椅子を引きずる音だと気づく頃には……
「な、んで……何で!家康にこんな酷いことをするのっ!!」
私は、声を張り上げ立ち上がっていた。
さっきまで怯えていただけの私はどこかに消し去り、椅子を顔の横に持ち上げ振り下ろそうとしている、体格の良い男の人を、キッと睨みつける。
「酷いこと?笑わせるな……さっきも言ったが、弟を屈辱したのはそいつだ」
「家康は!人を傷つけたり、酷いことをしたりしない!」
「ひまり!!」
後ろから腕を掴まれた瞬間……
「し、ないもん……っ…」
声が震える。