第230章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(17)
一秒が一分のみたいに思えて、
一分が一時間のように長く感じた。
廊下で別れてから、気が遠くなるぐらいゆっくりと私の中で時間が流れ、家康の体が前後に揺らぐたび、鈍い音、咳き込む声を聴くたび……
胸がねじれるように痛くて……
心が踏みつけられたように、苦しくて……
家康の微かに動く口を見て、やっと私の中で時間が早く流れた。
薄暗くて、滲んだ視界で、あっという間に過ぎ去った一瞬なのに……
目頭から涙を追い出せば……
『か、が、ん、で』
そう心で読み取っていた。
「ひまり!!」
でも……
名前を呼ばれて。呼び返して。
手を伸ばして……
触れるまでの時間は、永遠に続くかと思うぐらい。
時計の針が壊れて二度と動かないかもって、不安になるぐらい……
長い長い時間に思えた。
凍りついたように感覚を失っていた、
自分の体。
指先から触れたぬくもりが、少しずつ奥へと広がって、運んで、届けてくれたみたいに、最後には心に熱が灯る。
二度と離れないと主張するように、
がっちりと絡む指同士。
二度と離さないと訴えるように
背中に回された強い力。
(凄いね…………)
この先、きっと私は……
『あなたに何度でも、恋をする』
全身があったかいぬくもりに、
包みこまれた途端。
私は、私の心がそう思った。
(いえや……す……)
もう、塞がれてもいないのに。
声が出なくて。存在を確かめるように、頬をすり寄せる。耳に届く心音は乱れていたけど、ちゃんと刻んでいて……頬に当たる胸が大きく息を吸い込んで、吐くのが振動で伝わった時。
「ひまり……」
家康の心も伝わって……
また、時間が早く動き出した。