第230章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(17)
空き教室___
五人がそれぞれ行動を始めた時。
二人の他校生の男に挟まれ、みぞおちに深い蹴り込みが入り、蹲る家康。
しかし、一瞬だけ顔を上げ……
ひまりに口パクで……
『か、が、ん、で』
そう告げ……
力尽きたように倒れこみ、三人に気づかれないようにマントを外そうと……
「ゴホッ、ゴホッ……」
咳き込むフリをして……
シュルッ……
(……舐めないでくれる)
衣擦れの音をかき消す。
ひまりはそれが合図だと思い、目に溜めていた涙をぎゅっと押し出して、弾かせた。
男の手は、口元。もう一つは、腰元から離れ胸元にのぼってくる。今にも恐怖で崩れそうな脚。
そこに感覚を集中させて……
(触らないでっ!!)
一瞬、触れられた胸。
でも、自分の心に触れれるのは……
家康だけだと……
大きく深呼吸をしてから、
素早く床へ屈み込んだ。
家康はその一瞬を狙い、腕を伸ばす。さっき自分の肩に落とされ、転がったままの椅子の脚を掴み、ひまりがしゃがみ込んだタイミングを見計らって、男の胸元目掛けて思い切り投げつけ……
「ぐっ!!」
見事なコントロールで、男は後ろに仰け反り……その拍子に手から銀色の刃が滑り落ち、カランカランッと二、三度だけ金属音を立て床の上で止まる。
「お前っ!!」
「わっ!!」
マントを素早く脱ぎ、バサッと弧を描くように一度振りわまして、両サイドに立つ二人の注意を引き……
「ひまり!!」
「家康!!」
スローモーションがかかったように、
ゆっくりと流れた時間。
名前を呼び合い。
二人は互いに向かって、手を伸ばした。