第229章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(16)
夏の大会の
決勝戦後に聞いた。
幸村が俺に殺虫剤をかけたヤツと、羽交い締めしたヤツ、その二人は捕まえたって。二人は……つまり、二人だけじゃなかったって事。
グイッと頭皮に爪が食い込むぐらい、
髪を強く掴まれ、頭が浮く。
(咄嗟に目を洗いに向かったから、顔を見たのは……)
今、俺を殴ってる此奴ら二人。
でも、聞こえたのは複数の足音。
その中に……
(この男も居たかもしれない)
警察沙汰にはしたくなくて、たまたま殺虫剤が掛かっただけだと、しらばくれる俺に、織田先生は訝しげに眉をピクリと動かし、険しく目を細め、ある事を告げた。
ーー生半可に情なんか掛けるな後々、面倒に巻き込まれても、俺は知らんぞ。
(これがもし、俺が蒔いた種だとしたら……。俺は本気で自分自身を一番、許せなくなる)
別に大したことない。
それ以上に大ごとにして面倒なのも、何よりもひまりに無駄な心配を掛けさせたくなかった。
俺が黙っていれば、問題にならない。
俺はどうなっても良い。
目が見えなくなっても、別に構わない。
決勝戦の試合中。
瞼の裏でひまりの姿が浮かんだ瞬間……
本気で俺はそう思った。
今だってそうだ………
時折、不自然に左目に襲う激痛。
最近気づいた……
それがひまりとの「約束」に、
何らかの関係があるってことが。
みぞおちにのめり込んだ拳。
ゴホゴホと咳き込み……
横目で俺はある物を視界に捉え、
顔を上げ、薄っすら口を開け動かす。
それから、
力尽きたように床に倒れ込んだ。
「諦めたみたいだな」
狙うのは、一瞬の隙。
(……舐めないでくれる)
音を立てないように、首元を締め付けるモノを静かに解き……男がひまりの胸に触れた瞬間……
俺は腕を伸ばした。