第229章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(16)
両側でニヤつく二人。問題にならない程度にやるつもりなのか、さっきから顔は一切、狙ってこない。
「思ったより頑張るね〜」
「目を負傷しても試合は出場、そして見事に優勝。何でも、簡単にこなせるヤツは良いね……こっちは……」
「弓道一本で、死に物狂いだったのによ〜」
ドカッ!!
(うっ!!)
床に爪を立て、ガリガリと引っ掻きながら声を押し殺す。痛みに耐えるだけしか出来ない、情けない自分に何よりも腹がたつ。
こんな奴らにいい様にされ、掻きむしりたいほどの屈辱を味わっても……
(ひまり……っ……)
手を伸ばせば届きそうで、届かない距離にいるひまり。ガタガタと剥き出しになった肩を寒さからではなく、恐怖で震わせ……ガクガクと今にも崩れそうな細い脚。
助けれない自分に、誰よりも腹がたつ。
「ひまりに、さ、わるな……っ……」
そう、声を絞り出せば……
わざと俺の怒りを煽るように距離を詰め、哀れむような誘うような男の目つきが俺を見下ろす。
煮えたぎったような、
熱い感情が全身に突き抜け……
ある事に気づく。
(こいつ……じゃない……)
俺を見下ろす体格の良い男。その虫酸が走るような嫌な顔つきは、夏の大会に決勝戦に居たヤツじゃない。
薄暗い中でも、艶のある胸元まで伸びたひまりの綺麗な髪。その横で「気づいたか?」まるで、そう語ったように男の彫りの深い眉が動く。
(顔立ちは確かに似てる……けど、雰囲気が違う……)
夏の大会の決勝戦……
ーーあんたの先輩。負けた腹いせに、汚い手しか使えないワケ?
霞んだ視界で、俺がそう告げた男は何かに怯えたように、弓を握り、不安に耐えない目つきをしていた。