第228章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(15)
叩きつけた壁。
ブレザーを拾い上げ、
素早くその場を離れる……
(見せて貰うよ。君の……)
空き教室から大分離れた場所で一度だけ足を止め、信康は目を一度だけ閉じて、壁を思い切り叩きつけ……少し痺れた手を左胸の前に、あてた。
ひまりは、音に驚き男達が怯んだ隙に、ロッカーの中に逃げ込み、その場を凌いでいた頃。
家康は階段付近で政宗とぶつかり合い、次に秀吉に出会い、そして携帯を取りに教室に行き……
信長の話を聞いた直後、
走り出していた。
「徳川」
信康は背後から呼び止め、
ブレザーを差し出す。
(……君は、気づかないといけない)
ある想いごと、託していた。
それを受け取り、血相を変えて、普段の冷静など一ミリも決してなく、再び背後から何かに押されるように、走り出した輝く金色の髪。
その、翡翠色の奥に強いものを宿しながら、一目散に空き教室へと向かう家康……
「ひまり!!」
鍵が掛かっている筈の扉が、スッと開き、薄暗い中に足を踏み入れた。そして家康とひまりは、何故、自分達がこんな目に遭っているのか、何一つ理由がわからないまま苦しんでいた。
それを、信康は爪が食い込むほど拳を握り、空き教室の外側の扉前で……
ドンッ!!
(…………)
中に居る二人の様子を、
音と声で状況を把握していた。
その真下の美術室にいた、
政宗と弓乃。
「何か、さっきから騒がしくないか?」
「そ、っ、…それより///もう、いい加減にさ、教室に戻んないと!///」
窓枠に座ったまま、耳まで真っ赤にして弓乃は肩で荒くなった呼吸を、整えるのに精一杯。
息継ぎも出来ないほどの、キスを浴び……政宗との幸せの時間を噛み締め……
(まだ、一緒にいたいけど。早くひまりに報告したいし…さ///)
満面の笑顔で、
祝福してくれる親友を思い浮かべ……
自然と笑みが零していた。
そんな頬に政宗は触れ……
「そんな顔見せると、また喰われるぞ」
二人は美術室を後にした。